君のすべてをちょうだいよ

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 でたよ、いつもの半分こ。  颯太の癖は俺の食べているものを狙うこと。そしていつも必ず「半分こ」と言う。俺はため息をついて袋を開けると中のアンパンを真ん中から二つに割って片方を颯太に突き出した。 「ほら」  心底嬉しそうに颯太はアンパンを受け取ったのに、何故か俺の持っている残りをじっと見つめる。これはいつものことなんだよな。俺の半分のほうが大きいと思っているのか、それともまるまる一つをやっぱり食べたかったのか、颯太は俺が分け与えて残ったほうを少し気にする。  颯太がアンパンを美味そうに口に収めたのを見て俺も残りを平らげた。自分と颯太の間に置いていた牛乳パックを取ろうとしたら、先に颯太は当たり前のように注ぎ口に唇を当てていて喉仏が上下に動いていた。 「ちょっと、少しは残せよっ」  慌てて言った俺に颯太は牛乳パックを返してくれたけれど、その重さはもう底に数ミリ程度しか中身が残っていないのがわかった。 「ひどいな。それ以上、でかくならなくてもいいだろうに」  颯太は涼しい顔で俺の小言を流している。 「差し入れの弁当だって足りないんなら、高沢に弁当箱を返す時に言えばいいじゃん。もうちょっと量を増やしてくれって」  高沢は俺のクラスの女子のリーダー的存在だ。自分の容姿がきらびやかで可愛いくて男受けするのを良くわかっていて、実際に彼女の気を惹こうとする奴らも多い。そんな高嶺の花の高沢が目下狙っているのが目の前の少しぼおっとした颯太だから何だか不思議だった。  颯太は俺の提案を無視して、 「あ、国語の課題忘れてた。ハルんとこはもう終わってんだろ? ノート見せてくれ」 「またかよ。なんで忘れんのかな、それもいつも国語に限って」 「何だかヤル気になんねえんだよ、篠崎の授業は」  うちの高校の教師の中で一番若く女子に人気のある篠崎先生を呼び捨てにしたあげく、颯太は眉間に皺を寄せる。
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