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「お邪魔しま~す……」
つららが下がった玄関を抜けると、そこには小さなスペースに敷き詰められた雪が広がる。ずっと遠くにある木のてっぺんからわずかな光が入ってきて、なんだか神秘的だ。
「おやいらっしゃい、よく来たねぇ」
「おばあちゃん!」
思わずおばあちゃんに抱きついた。
ふわっと甘い香りがする。ついさっきまでどこかへ行っていたのだろう。私が嗅いだことのない香りだった。
「今日はどうしたの?」
「そうそう、ついさっき帰ってきたんだけどね、そこでびっくりすることを聞いちゃったから、こうして急いで帰ってきたんだよ」
「ん??教えて!」
「ムッシュさんのことは覚えているかい?」
「うん、覚えてるよ」
ムッシュさん……長老みたいなものだ。見た目は相当なおじいちゃんで、いつ死んでもおかしくない(まぁそれは私のおばあちゃんも変わりないのだが、彼女は未だにピンピンしている…当分死ぬことはないだろう)。
おばあちゃんが旅に出かける時は大体ムッシュさんのところに一度は顔を出すらしい。ものすごく物知りで、妖精の暮らしのことだけでなく、いろんな動物なんかのことも知っている。
この里にも一度来たことがあって、その時はまだ私は生まれて少し経ったくらいの頃のことだったのだが、ムッシュさんの大きな手で優しく頭を撫でてもらったということは、ほんのわずかに記憶にある。
「ムッシュさんから聞いたんだけどねぇ…いいニュースだよ。お前さんの羽、生えるかもしれないってさ!」
「ええぇっ!!」
「ちょっと驚きすぎじゃないかい、面白い子だね!アッハッハ!」
「だって…羽生えるかもしれないんでしょ?」
「そうさ。まぁでもおばあちゃんたちが生まれた頃はねぇ、羽のない妖精なんて沢山いたんだよ。
そんな妖精は生涯ずっと羽がないままか、歳をとるにつれて生える、そんなもんだったんだ。それがだんだん遺伝子の進化によって、羽がほとんど全ての妖精に生えて生まれてくるようになった。
今でも結構いるようだよ、この世界には。お前さんように、羽のない妖精がね。」
驚いた。この世界には私みたいな人がいたんだ。
「羽は…どうやったら生えるの?」
「うーん。それはよくわかっていないらしいんだよ。お前さんはこれから生きていく中でいろんなことを経験すると思う。きっとそれらの経験が影響を与えてくれるんじゃないのかね?」
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