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指がひらり、うごめいたから。
瞼を開くと、光が満ちている。まばたきして、日生子は無意識のうちに感覚を調整した。もやもやした何かが、胸の底から喉へせりあがる。
自分が毛布に包まれているのを知り、少女はそれを撫でた。ナデル指さをなんとなく眺め、閃く闇に硬直する。
「ゆび……ゆびっ!」
最後の記憶が頭をかすめ、日生子は手足をばたばたしながら飛び起きた。幸い手足も指もきちんと繋がり、ガイコツも周りにはない。
落ちついて周りを見ると、白いカーテンで囲まれていた。日生子が起きた気配に弾かれたように、カーテンが勢いよく開く。そしてクラスメイトたちが覗いてきた。また悲鳴をあげそうになるが、見知った顔が心配そうで、深呼吸する。
生徒たちがざわつくのを見下ろし、保健の教師が微笑む。
「良かったね、熱中症は意外と室内でもなるから」
「おまえ、図書室でたおれんなよ」
笑う少年たちに頬を膨らませたが、日生子は反論しない。したくない。
(だって、あいつ、いる)
ロッカー少女が恥ずかしげに、遠くから見ている。何を演技しているのかと、腹立たしくなるが。
「図書室? あたしは第2理科室の掃除に」「はぁ? なにそれぇ」 第2理科室の怪談を語っていた中心人物の少年が、怪訝な表情で聞いてくる。戸惑いは、生徒たちすべてに共通していた。
保健の教師へ助けを求めるように視線をやれば、その教師も不審な顔で日生子を見つめてくる。
「なんのこと? 理科室はひとつしかないよ」
「だから、もう一個ある、理科室!」
「理科室は、百年前からずっと、ひとつしかないんだって」
徹底的に否定され、日生子はぐったりとベッドに沈んだ。クラスメイトたちも口々に、第2理科室など存在しないとさわぎたてる。
問題のロッカー少女ですら、不思議そうに見つめるだけ。
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