2)帰りは……

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 反論する気力を失って、日生子はただただ、生徒や教師たちの状況の解説を菊しかなかった。  その日の日生子は朝から妙に浮かれ、自由学習のための図書室での事前調査中も上の空だったらしい。そして人体図鑑を調べるうちに、うわごとを言いながら倒れたそうなのだ。 「ゆび、ゆびがってさぁ! こえーよ」  笑う男子たちを諭し、リーダー格の少女が日生子の手をとる。 「よくわからないけど、日生子ちゃんが手足とか指が剥がれたって、そんな怖い夢、見ちゃったんだね。大人でもあるの。白日夢っていう……」  表情をとりつくろうこともせず、日生子は黙って保健教師の説明を聞き流す。 (絶対に! たしかに、聞いたんだから。行ったんだから! 第2理科室に)  皆の記憶からそれは消えたが、日生子の記憶は消えていない。  放課後、帰宅のため日生子は数人のクラスメイトに囲まれ、好転を歩く。風は初夏らしく少し生暖かい。  皆の目をかすめ、日生子は例の新校舎を見やった。白い壁のそれは、あの純白を思わせて嫌になる。けれど見つめたら、白い何かが浮かび上がってきた。半分透き通ったそれが伸び、新校舎を覆う。それは3本の指が、新校舎を握ったようで、日生子は顔を背けた。 (しらない! 見ない!)  風に撫でられた頬を擦り、日生子はすべてを忘れることにしたのである。  数年のち、新校舎は不審火で焼け落ち、白い骨組みだけが残ったという。
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