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「あ、資料取りに行かなきゃ」
せっかく腰かけたのに、サキはすぐに立ち上がった。
「資料?」と僕が首を傾げると
「私、学級委員なの。みんなに配る資料があるから、って先生に言われてたわけ」
ひらり、とスカートを揺らして教室を横切っていく。
「今日はもう寝ない方がいいわよ、トワ」
どうして、僕の名前を知ってるんだろう?
「多分、座席表を見たからじゃないかな」
そっか。そんな簡単なことも分からな
「……」
「やあ」
振り返ると、ぎょっとするほど近くに知らない顔があった。
「だ、誰!」
がたーんと机が鳴って、情けないほどに僕は動揺している。
「ごめんごめん、驚かせちゃった?」
意地悪く笑いながら、立ち上がる男子。背が高い。
威圧感すら感じる長身。意地悪い笑み。不気味な物言い。
身構えた僕に、すっと手を差し出した。
「俺、ナツキ。【羽嶋 夏来】。よろしくね、トワ君」
差し出された手を握る。
「よろしく……」
ナツキは嬉しそうに笑った。そこに意地悪い印象はない。少しだけ、警戒心を下げてもいいかな。
「いやー入学式をすっぽかすなんて、この学校じゃトワ君と俺くらいじゃない?」
「え、君も出なかったの」
寝坊とか、交通手段の遅延だろうか。
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