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高校の入学式をあと何時間か後に控えた、四月五日。
僕、【狭間 常】は悶々とベッドに横たわっていた。眠らなければいけないのに、頭はギンギンに冴えている。
準備は万端だ。万端過ぎる、と言ってもいい。
持ち物はこの一週間、一日につき一度はチェックしたし、制服も昨日の内に朝、昼、ベッドに入る前と計三回もアイロンを掛けてある。
つまり、寝坊さえしなければ僕が入学式からヘマをやらかすことはない。
なのだが、実際にそう上手くいくことはないだろう。
小さな頃から他人と接することが苦手な僕にとって、知らない人間の中に飛び込まなくてはいけないのは、まさに生き地獄なわけで。保険と称して過度なほどに準備をし、心配に心配を重ね、悩みに悩んで、こうして五時間もベッドの中で貴重な睡眠時間を削っている。ああ、もったいない。
……いっそ腹をくくってしまえば、楽になれるんだろうか。
高校で出逢う人間は、全員が初対面だ(多分)。
即ち、僕のことを知っている人は誰もいない(多分)。
ここで一歩踏み出せば僕は変われる……?
今までを、過去を無かったことにできるかもしれない!
俄然勇気が湧いてきた。そうと分かれば、僕の人生最大にして最高のプロジェクトを立ち上げなくては。名付けて……
そう、【高校デビューやってやろうじゃないか!プロジェクト】だ。
高校入学を機に僕は変わる。今、誓おう。
根暗ぼっちから、フレンドリーでたくさん友達がいる人間になるんだ!
「神様どうか、高校デビューが上手くいきますように。高校デビューが上手くいきますように。高校デビュ―が上手くいきますように……」
よし、これで明日、じゃなくて今日は問題ない。興奮して身体が温まったからか、眠たくなってきた。
この時の僕は(深夜テンションが故に)頭が働いておらず、高校デビューを甘く見ていた。当然、この先に待ち受ける運命など、知る由もなかった……。
なんて展開も、アリかもしれない。
「……あー」
いや、やっぱナシで。
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