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朝目覚めて、真っ先に愛犬のカケルがいる庭に足を向けた。一週間前に知り合いから譲り受けた雑種だ。秋田犬の血が少しだけ混ざっているらしい。秋田犬と言えば忠犬ハチ公が有名だけど、一歳になったばかりのカケルも同じように賢い。
玄関扉を開けて庭に出て「おはよう、カケル」と声をかける。
あれ、おかしいな。いつもなら私が庭に出たときには犬小屋の前で待っているのに。具合でも悪いのかな。
犬小屋を覗いて、言葉を失った。その場に膝から崩れ落ちて凍り付いたように固まってしまう。
嘘、これって何かの悪い冗談でしょ。
頭が真っ白になり何が起きたのかすぐに理解出来なかった。どれくらい犬小屋の中をみつめていたのだろう。地面が赤黒く染まっている。半開きになった口と見開かれた目を見てしまうと心臓がギュッと締め付けられたようで胸が痛む。酷い姿も涙でだんだんぼやけて霞んでいく。
嫌だ、こんなの嫌だ。
「どうしたの、美月」
「お母さん、カケルが、カケルが」
私は意味が解らずパニックになりそうで母に縋りつく。
「どうしたの……」
私が指差す先を目にして母は言葉を詰まらせた。けど、すぐに父を呼んだ。
カケルは首から血を流して息絶えていた。カケルの目を見るのが辛い。恐怖に慄いた目をしている気がした。母はカケルの目を閉じてあげようとしていたが、うまく閉じてくれないようだった。
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