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家の前に着くと大きく息を吐く。そのとき家の門柱に顔が見えて悲鳴とともに身体が仰け反ってしまい足を滑らせて尻餅をつく。
なに、あれ。顔にしか見えない。
門柱に浮き上がる人の顔。その顔が、まるで目のつり上がった般若の面みたいだった。怒りを露わにしたその顔がじっと私を睨み付けてくる。腰を抜かして立つことが出来ない。この家、どうかしている。
悲鳴を聞いて駆けつけてくれたのだろうおばさんが「どうしたの」と声をかけてくれた。私は「そ、そこに」と声を震わせて門柱を指差した。けど、そこに顔はもうなかった。
どうして。幻でも見たというの。
「なに、何もないみたいだけど」
訳が分からない。頭の整理がつかないまま何かを言わないといけないと思い「いや、その変な虫がいて」と誤魔化すしかなかった。
「もう美月ちゃん、驚かせないで。変質者でも出たのかと思っちゃったじゃない」
「す、すみません」
「いいのよ」
おばさんは私を立たせて帰って行った。
確かに顔はあった。見間違いじゃない。自分の家なのに、入りたくなかった。共働きで家には誰もいない。ひとりっきりで家にいるなんて出来ない。
私は母が帰ってくる時間まで近くの公園のベンチに座って門柱に浮き出た顔のことを考えていた。きっと、目の錯覚。そう思い込むしかない。思い出しただけで鼓動が早くなる。喉の渇きも感じる。何かがおかしい。これってもしかして心霊現象。すぐにかぶりを振って違うと自分に言い聞かせる。母が早く帰ってくることを祈った。ここにいれば必ず母が通る。一緒に帰ればいい。
また顔が見えたらどうしようと思いつつもずっと公園にいるわけにもいかない。チラチラと母が通らないか何度も道の方を見てしまう。
気のせい、気のせい、気のせいと何度も繰り返して落ち着かせようとする。どれくらいそこにいただろうか。
「あら、美月ちゃん。どうしたの」
母が先にみつけてくれた。母の顔を見て、ホッとして瞳が潤む。
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