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その人影が揺れた。人とも思えない動きだ。ハッとした。まさか幽霊。その瞬間、振り返り目を光らせて睨み付ける老婆がいた。
「ひぃ」
すぐに窓から離れてベッドへ飛び乗り布団を被って目を閉じた。あの顔は門柱で見た般若だ。なんで、なんで、なんで。私は何も見なかった。そうよ、見ていない。早く寝なくちゃ。お願いだから、こっちに来ないで。
カラン……カラン、カラン。
突然、音が耳の傍で鳴り響く。何、この音。
チリリン、リンリン、チリリリリン。
やめて、お願いだから。鈴の音が頭の中に鳴り響く。
そのとき、窓が突然開け放たれて風が押し寄せてきた。
「いやーーーーー」
思わず叫んでいた。
目を閉じているはずなのに般若の面が目の前にニュッと現れて、「二度と犬を飼うな。さもなくば取り返しのつかないことが起こるぞ。狐神を脅かすな」としわがれた声で囁かれた。
「ごめんなさい。もう飼いません。だから、許してください。ごめんさない」
目に涙を溜めて必死に謝った。
「美月、大丈夫」
父の声に顔をあげると般若は消えて、父と母の顔がそこにあった。
私は父に抱きつき、声をあげて泣いた。
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