8人が本棚に入れています
本棚に追加
/224ページ
体に力が入らない。
頭を強く打ったのだろうか、見える景色全てが歪んでいるように思える。
最悪が訪れたのはその後だった。
「ああぁ・・・、ああぁぁぁぁぁ!!!!」
俺より少し先の位置に跳ね飛ばされたサラリーマン風の男が呻く。
右足が歪な形に曲がり、頭からは鮮血が流れていた。
その男がひしゃげた指で指し示す先に、絶望があった。
甲高いファンファーレにも似た音を上げながら迫りくる鉄の塊。
ぐんぐんと速度を上げながらこちらに向かってくるそれは、死の恐怖を思い知らせるのには十分すぎた。
「や・・・ばい・・・」
なんとかこの場を離れなければ。そう思って手に、脚に力を込めるがびくともしない。
ようやく気づいた。手が折れている。
びりびりに裂けたシャツの間から飛び出ているのは骨だ。跳ね飛ばされた時に強く打ち付けてしまったのだろう。俺の右手はどうしようもないくらいに壊れていた。
いや、折れているならまだいい。
だって、俺のすぐ前に落ちている"それ"は・・・俺の脚じゃないか?
それに気づいた瞬間、灼熱の如き痛みが体中を駆け巡った。
「がぁぁぁぁぁ!!!!!!」
痛い、痛い、痛い、痛い!!!!!
少しも消えることのない痛み。腹の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような痛み。
ダメだ、ちっとも動かない。
「は・・・やく・・・!!!!」
「は・・・やぐぅぅ!!!!」
もう電車はすぐそこまで迫っている。
ここにいては行けないのに。ここから離れないと命はないのに。
それでも動こうとしない体を無理に動かし、這うように、呻くように。
「うごげ・・・!!」
頼む、動け、動いてくれ!!!!
「動いてぐれぇぇぇぇ!!!!」
そこで、俺の記憶は途切れた。
最初のコメントを投稿しよう!