【プロローグ】ある日それは突然に

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体に力が入らない。 頭を強く打ったのだろうか、見える景色全てが歪んでいるように思える。 最悪が訪れたのはその後だった。 「ああぁ・・・、ああぁぁぁぁぁ!!!!」 俺より少し先の位置に跳ね飛ばされたサラリーマン風の男が呻く。 右足が歪な形に曲がり、頭からは鮮血が流れていた。 その男がひしゃげた指で指し示す先に、絶望があった。 甲高いファンファーレにも似た音を上げながら迫りくる鉄の塊。 ぐんぐんと速度を上げながらこちらに向かってくるそれは、死の恐怖を思い知らせるのには十分すぎた。 「や・・・ばい・・・」 なんとかこの場を離れなければ。そう思って手に、脚に力を込めるがびくともしない。 ようやく気づいた。手が折れている。 びりびりに裂けたシャツの間から飛び出ているのは骨だ。跳ね飛ばされた時に強く打ち付けてしまったのだろう。俺の右手はどうしようもないくらいに壊れていた。 いや、折れているならまだいい。 だって、俺のすぐ前に落ちている"それ"は・・・俺の脚じゃないか? それに気づいた瞬間、灼熱の如き痛みが体中を駆け巡った。 「がぁぁぁぁぁ!!!!!!」 痛い、痛い、痛い、痛い!!!!! 少しも消えることのない痛み。腹の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような痛み。 ダメだ、ちっとも動かない。 「は・・・やく・・・!!!!」 「は・・・やぐぅぅ!!!!」 もう電車はすぐそこまで迫っている。 ここにいては行けないのに。ここから離れないと命はないのに。 それでも動こうとしない体を無理に動かし、這うように、呻くように。 「うごげ・・・!!」 頼む、動け、動いてくれ!!!! 「動いてぐれぇぇぇぇ!!!!」 そこで、俺の記憶は途切れた。
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