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その時は社会人成り立てで、私は寮のある会社に勤めていました。
新人だったから毎日覚える事と、慣れない仕事に緊張を強いられて、全くと言ってよいほど遭わなくなっていた金縛りに再び遭う様になっていました。
でも無視です。
相手していたら余計に疲れます。
意地でも寝てやります。
新人は半分くらいが会社の寮に入っていましたか。
中小企業なのでそんなにいませんでしたが。
可愛い事に、毎朝お母さんに起こして貰っていたから、一人で起きられる様になるまで起こしに来てと頼む子とか居ましたね。
学生気分も抜けきらないからか、寮の生活はどこか合宿めいた雰囲気があったのを覚えています。
そんな中で事件は起こりました。
隣の部屋の子が騒ぎ立てているのです。
何事かと顔を覗かせましたが、騒いでいる当人には聞けそうにないので、その子をなだめて居た子に話を聞きました。
金縛りだそうです。
前に同じ部屋を使っていた人も金縛りに遭ったとの話を聞いて更に怖くなったそうで。
これは私も遭ったと言ったら、この場がパニックになると判断しました。
「もうこの部屋嫌。先輩、盛り塩すると良いって言ってたけど効くのかなあ」
最早泣きそうな当人と目が合います。朝、起こしに行くお母さん役を仰せつかっていたからでしょうか、何か対処法ないかと問う顔です。
「ええっと、私ら新人だよね。仕事ミスしたくなくて緊張しているし、覚える事は多いし、慣れないから身体は疲れるよね」
素直に頷くのでそのまま続けました。
「うん、だからね。緊張し過ぎるせいで頭の方は興奮していて目が覚め易い状態なの。身体は逆に疲れ切って起きにくい状態なの。だからちょっとした事で目が覚めても、身体は寝たままの状態で動かないから、それが金縛りだってなる訳」
「じゃあ、盛り塩って意味ない?」
「否、やっとこう。プラシーボ効果で安心感得られるから、脳の興奮押さえられる」
力強く告げた言葉に素直に頷く子でしたが、怖がらせない為の嘘なので罪悪感ありました。
……隣の部屋で金縛りどころか、幽体離脱も経験していたので。
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