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村長が一歩前へ出る。
『突然失礼いたしました…それでどちらの方で?』
『もう1度ですか?長いから言うの疲れるんですよねー。もう1度だけですよ?
日本流水協会水質調査本部第2部隊現地派遣調査官の山中こよみです。』
『その…流水協会?の方がこの村にどんな御用でしょうか?』
村長のその言葉にこよみは大袈裟に驚く。
『え?通達なかったんですか?日本全国の全ての川の水質調査をするために国から依頼された団体のものです。今日から5、6ヶ月こちらで住み込みさせていただきながら水質調査させていただくことになっているんですが…』
村長である米俵は必死に記憶を辿る…そんな通達あっただろうか…?
『…そうですか。こちらの不手際ですいません…
とりあえず…私の家の母屋で良ければお使い下さい。妻に必要なものは言っていただければ…
あの…それで、聞きにくいんですが…山中さんはおいくつなんでしょうか?』
米俵の不自然な問いにこよみは笑顔で答えた。
『今年23歳になります。でも…それがなにか?』
『い…いえ…なんとなくお聞きしたくなったものですから…気になさらないで下さい。』
そう言って米俵は安堵のため息をつく。
周りの大人達もどこか安心したように見える。
野久保小毬は13年前のイケニエ。
小学校1年生、すなわち7歳の時にイケニエになったわけだから小毬であれば20歳になるわけだ。
山中こよみの顔が野久保小毬をまさしく大人にした感じだったので驚いたが別の人間であった。
米俵は山中の事を妻に知らせるためにそそくさと家に帰る。
そうだ…野久保小毬は13年前に死んだじゃないか…神様の嫁として、あの洞窟で神に捧げてきたじゃないか…
と、自分に言い聞かせながら…
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