3 私(2)

2/2
前へ
/8ページ
次へ
 私にもわかっていた。きっとあなたはほの明るい炎に焼かれている。それはあなたにとっての救いだから。そんな苦痛が好きな、愚か者だから。  ねぇ、私は煙草の火を消した。もう一度だけ、言うわ。私の言葉に、あなたは静かに首を振った。いつだかに見た、困ったような顔がそこにはあった。紫煙はどこかにふわふわと漂い、天井にぶつかって広がった。ほんとうはどこかにいけるなんて、私にだってわからないのに。ごめんなさいと言って、あなたは小銭をおいて席を立った。いくつかの金属音が私の脳内に響く。もう時間なんです。ごめんなさい。あなたはそっと脱いでいた上着を羽織ると、銀色の煙草をポケットに収めた。そのまま席を立ち、私にさよならと言った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加