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「キヨ、私大学いく」
その日はヤケに蒸し暑い夜だった。
ふんわりと流れる扇風機の風と共に、その力のない声が俺の耳に届いた。
「ふーん。旭、頭良いもんなぁ。
静大いくん?」
何の疑いもなく、俺は無邪気な笑顔を彼女へと向けた。
地元で有名な国立大学。
当時無知だった俺でも知ってるくらい、皆んなそこを目指していた。
「ううん、東京に行きたい」
その答えは思っていたのと全然違くて、
思わず手に持った綺麗な三角をした西瓜を落としそうになった。
「いいでしょ。私ね、小さい頃からずっと憧れてたんだぁ」
生まれてからずっと一緒にいたのに、欠片もそんなこと知らなかった。
ずっと俺のことを脅かして、驚かせて、笑わせて。
本物の弟のように可愛がってくれた旭。
いつも笑ってて、真面目な顔なんて一度も見たことがなかった。
そんな旭が、ほんの半年後にもう俺の前から消えてしまう。
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