一話 吸血鬼の涙

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 吸血鬼の両親から生まれたキュラは、まだ小さいときに父親を病気で亡くした。その後、『紅血』を狙う異人種ハンターから身を隠し、母親と二人で町を転々としながら過ごしていた。吸血鬼は異人種の中でも高い魔力を誇るものの、その力を使用するためには、人間の生き血を吸血する必要がある。現代では、自らの姿を晒し、人を襲うこともままならず、ただハンターから逃げることしかできなかった。  そんな日々の中で、ただ一つ、キュラは母親から、決して泣いてはいけないと教えられてきた。泣いてしまい、吸血鬼だとばれてしまわないように。吸血鬼の涙の結晶である『紅血』をハンターに奪われないように。  キュラはハンターから逃げる生活の中で、どんなにつらいことがあっても決して泣くことはなかった。母親と二人で、町を転々としながら過ごす日々は、決して楽な日々ではないけれど、二人で過ごす時間だけが、キュラの救いであり、幸せだった。  そんなある日、家庭を一人で支えていた母親までもが、病気で倒れてしまった。 「お母さん……!」  もうすぐ息を引き取るかもしれない。そんな母親の姿を見て、キュラは目から涙が溢れ出しそうになった。それでも、 (泣いちゃ、だめです……! お母さんと、約束したから……!) そう自分に必死で言い聞かせた。 「キュラ……」  自室の布団で眠っていた母親が、ゆっくりと目を開け、温かくキュラを見つめる。布団の中から力なく現れた母親の手が、キュラの頬を優しく撫でる。 「いままで苦労させて、一人にしてごめんね……。それでも、あなたが生まれてきてくれて、私たちは幸せだった……」     
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