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母親は、キュラに優しく微笑みかける。キュラは目頭が熱くなるのを感じた。お母さん、お母さん。そう何度も声をかけたかった。それでも、口を開いてしまったら、いまにも泣いてしまいそうで、キュラは必死に唇を噛んだ。
「ありがとうね、キュラ……ずっと、ずっと愛しているわよ」
そう母親が言ったとき、母親の目から美しい『紅血ではない涙』が流れ落ちた。どうして母親の流した涙が『紅血』にならなかったのか、キュラにはわからなかった。それでも、母親が見せた、初めての涙。キュラは胸が震えるのを感じた。
「お母さん……!」
キュラは、母親と別れたくなかった。これからもずっと一緒にいたかった。
「お母さん……! お母さん……!」
キュラはたまらず、母親を呼び続ける。我慢なんてもうできなかった。母親に抱き着き、もう何年振りかになる涙を流し続けた。
その涙は、キュラの瞳を離れると、『紅血』となり母親の布団を濡らすことはなく、いくつもの結晶が音をたてて、床に落ちた。
母親が流した『紅血ではない涙』。その涙の意味を、キュラはまだ知らない。
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