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とある施設の会議室にて、幾多の有識者たちが意見を交わしていた。
司会進行役がマイクを手にする。
「さて皆さま、次の議題ですが、お手元の資料をご覧ください」
資料を開いた出席者たちは、一様に驚きの表情を浮かべた。そして、
「おお、ついに……」
「短かったが、当然の報いか……」
「だからもっと大切にとあれほど……」
などと、口々に呟いた。ひとしきりのざわめきが収まった後、再び司会が声を発した。
「ご覧の通り、この対象は、まもなく寿命を迎えます。異論がある方はお申し出ください。反対が過半数に満たない場合は、このままの寿命ということで認可、可決されます。よろしいでしょうか」
司会が言い終わらないうちに、割れんばかりの拍手が湧き起こる。
司会も満足そうな笑顔になった……その時、
「すみません」
突然、会議室の扉が勢いよく開き、息せき切って誰かが入って来た。この報告書を提出した、寿命計測の担当者だった。
「どうした、今、採決の途中だぞ」
司会がたしなめるのも聞かず、担当者は意を決したように顔を上げると、よく通る声で伝えた。
「すみません。計測に不備があって。本当は、この対象の寿命、まだあと半分ありました」
「なんだって……」
衝撃の発言に、一同は騒然となった。
「まだ半分?」
「では、今後も生き続けるというのか、なんて不毛な」
有識者たちは、一様に顔をしかめた。
「どうしましょうか」
誰かが発した疑問に対して、応える者はいなかった。
静まり返った次の瞬間、部屋の隅に居た老有識者がゆっくりと立ち上がって言った。
「半分は、太陽に与えよ」
その言葉に、皆、色めき立った。
「いい考えだ」
「そもそも太陽の頑張りのおかげで成り立っていたんだから、最期に恩返しさせてやろう」
「もういい加減、あそこはそろそろ寿命でちょうどいいですよ。進化なのか退化なのか、ろくな時間を過ごしていない愚かな星ですからね」
皆の意見がまとまったのを感じた司会は、再びマイクを取った。
「では皆さま、よろしいですか。今回の対象である地球の、残り半分の寿命は、太陽に付与。地球は当初の予定通り、まもなく終焉といたします」
会場は再び歓喜の渦に包まれた。
「地球の生命体に、我々の半分程でも賢明さがあれば、違う結末になっていただろうに……」
そんな誰かの呟きも、拍手と歓声によって、かき消えた。
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