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息を切らせて野路菊堂に戻って来た和大に正大はやや面食らっていた。
「なんだ?・・・・・・和大?」
「うん・・・・・・ただいま」
「あぁ、おかえり・・・・・・なんでそんな感じなんだ?」
和大の様子に全く思い至るところのない正大は困った顔をしていた。
「分かったんだよ、ズレの意味」
「ズレの意味?・・・・・・拓海さんたちのことか」
和大の言葉に正大は少し話が見えてきたようだった。
「俺には大地さんの言葉が聞こえてたんだよ」
「あぁ、そうだな・・・・・・」
「もちろんそれは大地さんが話した言葉もそうだけど、それだけじゃない。心の中の言葉が含まれてた」
「でも・・・・・・見えていたのは大地さん自身のことじゃなかったよな」
「そう、それはあの写真を撮ったのが大地さんだからなんだよ、それは1枚目の写真と同じ。でも、それだけじゃなかったんだ」
「それだけじゃない?」
「確かに伝わってきたのは大地さんが見てた景色、それは間違いない。でも彩花さんが見てた景色でもあった・・・・・・ううん、ちょっと違うかな。景色なんじゃなくてそこに流れる時間というか」
「空間そのもの・・・・・・といった感じか」
「そうだね。そこには彩花さんの思いがあったんだと思う。いや、違うな。大地さんの思いと彩花さんの思いが、そこにあったんだよ、同じ強さで」
「同じ強さ・・・・・・」
「拓海さんと彩花さんに向けた大地さんの思い。それと同じように拓海さんと大地さんに向けた彩花さんの思い。もちろん拓海さんも彩花さんと大地さんに向けた思いを持っていただろうけど」
「互いに向いていたんだな、思いが。それぞれの方向へ」
「だからズレがあったように感じられたのかもしれない、俺たちは大地さんだけを中心にしていたところがあったから」
正大は考えをまとめるように腕を組み目を閉じていた。
和大は再び拓海から預かった写真を取り出し見つめている。
「和大・・・・・・」
目を開けた正大は写真たちを手に和大に向き合って目を閉じた。
もう一度拓海と大地のこと、そして彩花のことに向き合うために。
和大も正大に向き合うとその手を正大の手と重ねた。
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