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気温が上がる外とは違って、やや涼しい風が野路菊堂の中には入りこんできていた。
その風が風鈴を揺らして涼やかな音を奏で、青色がきらめいていた。
そこに向かい合わせで座っているのは拓海と大地。
拓海は大地の方を見つめているのだけれど、大地は外の方を眺めているようだった。
「大地・・・・・・元気だったか?」
最初に口を開いたのは拓海だった。
最後に会った日からそれほど変化がないのは見てとれていたが、聞かずにはおれなかった。
「あぁ、元気だ。拓海も元気だったか?」
「あぁ、俺も元気だった・・・・・・大地」
自分の方を向かない大地の様子にどうすればいいのか分からないでいながらも拓海は話を聞こうと呼びかける。
それに対して大地は一つ深呼吸をすると拓海の方を見た。
「彩花は元気か?」
「え?彩花?」
自分が質問をしようとしていた拓海は不意打ちをくらったようで大地をじっと見つめる。
「彩花は元気か?」
固まったままの拓海に大地はもう一度同じ質問をする。
「あ、あぁ。元気だな、忙しそうだけど」
ようやく大地の質問を受け止めた拓海は言葉を返す。
「それなら、良かった」
そう言うと大地は僅かに微笑んだ。
「大地?・・・・・・あのさ」
「拓海・・・・・・」
話しかけようとする拓海の言葉を遮るようにまたも大地は話し始める。
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