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その店は、商店街の一角にある。
蔦がはっている壁に、古いガラス戸。
看板には『野路菊堂』と書いてある。
その名の通り、ガラス戸の隅には野路菊の絵が描かれていた。
時刻は昼を過ぎて暑さがじりじりと迫って来ていた。
「暑くなってきた・・・・・・」
正大は店内で資料整理をしていたが、ついに手が止まってしまった。
和大はその近くで物置から出してきたダンボール箱を漁っていた。
「確かに暑いよなー、お茶冷やしてあるから持ってこようか?」
「あぁ・・・・・・って、和大は何してるんだ?」
「いや、ちょっと探し物を・・・・・・あった!」
和大は小さな箱を取り出して喜んだ。
「それは、何だ?」
不思議そうに見ている正大の目の前に和大が差し出した。
「ちょっとは涼しくなるかな?と思って」
それは綺麗で鮮やかなブルーが目を引くガラス製の風鈴だった。
「風鈴ね、確かに涼しげな見た目だな」
「風が吹けば涼しげな音が響くし」
和大は近くにあった木製のスツールを持ってくると店の入口付近に吊り下げた。
ほどなくしてやわらかい風が吹くと澄んだきれいな音が響いた。
そして太陽の光を受けた風鈴はその天色を透かして輝いていた。
正大はその音に耳を傾け微笑んだ。
和大はその姿を目を細めながらも眺めていた。
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