知らない天井だ・・・

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 女性の気の抜けた返しにも蒼依は気にせず、重苦しい雰囲気のまま「ああ」と答えた。 「・・・ふっ、ふふふっ。私の名前ですか?」  女性は口元に手を当てながら、今度は笑いを含んだ声でもう一度復唱した。その顔には少しだけ楽しそうで、少し嬉しそうな色が滲んでいた。 「私はキャンメルです。この名はこの世の母であり父である偉大なお方から頂いた名なのです」  キャンメルの目には懐かしさと嬉しさ、そして少しの寂しさを浮かべ笑った。  しかし、蒼依が良い名だと言うと、はい!ととても綺麗で純粋な嬉しいと言う感情を乗せた笑顔になった。その笑顔につられ、蒼依も一緒になって笑った。 「それでは、蒼依さん。何に生まれ変わるかは私にもわかりませんが、貴方ならばきっと良き出会いがあるでしょう。あなたの人生に幸多からんことを」  キャンメルがそういうと蒼依の足元を中心とした円形の模様が浮かび上がった。模様の中全体からいろんな色の光が射し、ふわりと体が少し軽くなるような感覚がした。  これが別れだと理解していた蒼依はキャンメルへ「またね」と言う気持ちを込めて手を振った。光に遮られる直前、キャンメルが手を振りかえしてくれたのが見えた。  光が収まると、そこにはもう蒼依の姿はなくなっていた。     
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