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子供は木の枝を避けながらさっきまではいなかった黒猫に普通に返事を返した。猫は呆れたような眼で見上げ、溜息を一つ吐き子供に視線を戻しより一層呆れたような眼を向けた。
―――――そうじゃねぇよ。石を投げつけた事だよ。
「ああ、それね。あの石、面白い形してたのになぁ~」
子供の返しに黒猫はまた溜息を吐いた。これ以上言ってもどうしようもないとこれまでの経験でわかっていたのだ。
話題を変える為今目指している場所を尋ねることにした。
「今?適当に歩いてるだけだけど?」
猫はそれ以上はもう何も言うまいと子供に話しかけるのをやめた。
しかし、つい口は滑ってしまうもので猫は「なんでこんなのが俺の主人なんだ・・・」と零してしまい、たまたま森を抜けた先にあった大きな街に着く頃には艶のあった綺麗な毛並みはぼさぼさの野良猫のようになってしまっていた。
猫は近くにあった小さな水たまりに移った自分の姿を見て、「ひでぇ・・・」と泣きそうになるくらいには傷ついていた。
水たまりには一粒の雫が跳ねたように見えたがきっと気のせいであろう。
子供はそんなことはどうでもいいと言うよソワソワと街を囲む大きな壁の先を見つめていた。
「君、名前は?」
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