世界からフェードアウトゥ!

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 中井の方を掴み落ち着かせようと声を掛けた時、それまで無言で見ているだけだったサングラスの男が動いた。  サングラスの男は中井の腕を容赦なく掴み、勢いよく押し返した。中井も残業続きでフラフラな状態だったこともあってか、押し返す力に踏ん張りが利かず後ろによろけた。  もちろん、中井の後ろに立って肩を掴んで止めようとしていた俺も一緒に突き飛ばされ柵に体が当たった。しかし、俺の体は押された中井が倒れこんできたこともありそれでは勢いが殺しきれなかった。  ドミノ倒しのような形で中井の勢いも相まって俺は勢いよく柵の外側へ押しやられた。  まあ、普通ならこれくらいのことで成人男性の体が柵を乗り越えてしまうことなどなかっただろう。しかし、ここの屋上の柵は普通と比べて低めなのだ。腰よりは高い位置にあるがそれは数十センチの話だ。  そして、この時の俺は残業続きでフラフラ状態で倒れないように踏ん張るのも難しい。柵からも少し離れたところから倒れこんでいるため、上半身から腰を打ちつけながら柵を通り越した。  柵を乗り越え、建物の外へ体が完全に出た。そんな命の危機を感じて普通なら顔を青ざめさせるだろう時に、ピンチ真っ只中の張本人が思ったことは(あ、右靴脱げた)というアホなことだけだった。     
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