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僕の体に別の誰かが入っている。誰かが僕が眠っている間に、体を乗っ取ったのだ。潜在的な別人格の僕かもしれない。でも、本当の僕は、ここにいるのだ。
「お前は誰だ?」
僕は前を歩く僕自身に向かって叫んだ。もちろん声は届かない。知っていたはずなのに、叫んでいた。ホテルに入って行く2人を、絶望的な目で見送った。一緒に中に入る勇気はなかった。これ以上、僕の体が汚されいく様を見たくなかった。きっと、僕は指を加えて見ているだけしかできない。
とりあえず家に帰ろうと思った。もしかすると、部屋の中に、この事態を脱する手がかりがあるかもしれないと、思い立ったのだ。いつもと違った所はなかっただろうか? そう考えると、記憶も怪しくなってくる。僕の体は建物の中へ入る途中、一度だけ、こちらを振り返った。
僕は体を見捨てて、帰路に着いた。幽体のような存在なのに、公共交通機関を利用して帰っているのが、何だか可笑しかった。地上から両足が離れた状態で、駅から家までの道を進んだ。体力的な疲れはなかった。空腹でもないし、喉も乾いていない。尿意すら感じない。僕はこれからどうなるんだろう? なんとしても元の体に戻ってやると決意を新たにし、通りを駆け抜けて行った。
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