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玄関の扉をすり抜けると、違和感を感じた。リビングに明かりが灯っていたのだ。はて、出て行く時、消し忘れていただろうか? いや、昼間だったから、元々電気は点けていなかったはずだ。リビングの扉をすり抜けると、ソファに知らない女が座っていた。
また知らない女だ。今の僕は意識で、実態がないにも関わらず、全身に寒気が走った。なぜ僕の家に知らない女がいるんだ? 鼓動が速くなる。得体の知らない恐怖が押し寄せてくる。先程までの女たちと比べると地味な女だった。
年の頃は同世代くらいだろうか。若くも見えるし、老けても見える。真っ直ぐに切り揃えられた黒髪に、化粧っ気のない顔。グレーのシャツに黒いタイトスカート、背筋をピンと張り、つま先を揃えた姿勢で、座っている。僕はソファに回り込み、女の顔を確認した。
「おかえりなさい」
一瞬目が合ったを思ったら、女がそう僕に向かって言った。心臓が飛び出て来そうな位、大きな音を立てて弾んだ。ごくりと唾を飲み込んで、僕は女をもう一度見た。
「おかえりなさい。どこに行ってたの?」
女はまっすぐな視線を寄越して、もう一度訊ねた。
「……俺が見えるのか?」
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