1人が本棚に入れています
本棚に追加
入口のショーケースには食品サンプルが並び、店内の壁は燃えるような赤に金色の文様が描かれている。棚には幸運のシンボルである金色の豚の置物が並んでいた。奥の4人掛けのテーブル席に通されたが、向かい合って座るのではなく、なぜか女は僕の隣の席に着いた。メニューを開き、注文をするのは女ばかりで、僕の意志は反映しないらしい。僕も僕で興味がないのが、メニューには興味はなく、会話も上の空で、携帯電話をいじりながら、生返事をしている。
注文を聞き終えたチャイニーズドレスを着たウェイトレスが、厨房へ戻るのを見計らって、女はブランド物のバッグから、茶封筒を取り出し、テーブルの下からそっと僕の手に握らせた。僕は、彼女を一瞥し、封筒の中身を確認する。中には現金で3万円が入っていた。僕は茶封筒を半分に折り曲げると、そのままジーンズの尻ポケットに突っ込んだ。
運ばれてきた料理を貪る2人を見下ろして、僕は途方に暮れた。その金の意味は何なのか? 一体、僕自身に何が起こっているというのか? 僕は平凡などこにでもいるようなサラリーマンだったはずだ。やはり意識の僕の方が偽りなのか? いいや、違う。気を確かに持つんだと、自分を奮い立たせた。
最初のコメントを投稿しよう!