第1話 勇者旅立つ!

2/2
前へ
/19ページ
次へ
男は立っていた。 目の前には、見慣れた時刻表。 ここは、毎朝通勤で利用するバス停である。 「バスもう来る?」 横を見ると、見慣れた不機嫌な顔。 これは、毎日顔を合わせてる妻である。 社会人になり、上京した娘の所に 様子見がてら旅行に行くところだ。 男の名は、一一(カズイチ)。 妻の名は、一三(カズミ)である。 お互い名前に運命的なものを感じて 結婚した。いや、してしまった。 何となく、普通の名前にしづらくて 娘の名前を一二三(ヒフミ) にしてしまう、どこにでもいそうな フレッシュ感ゼロの45才の会社員である。 「もうすぐ来るから- - -」 言いかけた時に、道の向こうに いつも乗る黄色いバスが目に入る。 カズイチ「来たか。」 これから始まる二泊三日の旅行。 カバン持ち兼、荷物持ちとしての 活躍が期待されている。(強制である。) 女は、子供を産むと強くなる。 更年期を迎えると、もっと強くなる。 反対に、男は弱くなる。(みんなではないが。) 妻が子供を産むと弱くなる(下半身) 妻が更年期を迎えるともっと弱くなる。 (頭皮の紫外線に対する防御が。) 子供の頃に遊んだゲーム風に メンタルをレベルで表すと、 勇者 カズイチ Lv.11 村人 カズミ  Lv.130 戦闘(家に虫が出る)になると、 それがハッキリと確認出来る。 G(黒くてガサガサするヤツ)Lv.20が現れた! カズイチ → 逃げる。 カズミ  → ゴキコロリを唱えた。 Gを倒した。 カズミは、レベルが上がった。 こんな具合いである。 (カズイチは虫が苦手である。) そんな事を色々と妄想している間に、 バス→市電→新幹線→東京に到着である。 今は地下鉄入り口と書かれた場所に カズミと立っている。 カズイチは動かない。いや、動けないのだ。 幼少期のトラウマで、地下鉄が- - - 「何してるの?行くよ!!」 心のナレーションにカブせて カズミが声をかけてくる。 「やっぱり、俺は歩いて行くよ。」 本当は、徒歩では絶対に無理ななのだが - - 再び心のナレーションにカブせて カズミが叫ぶ。 「地下鉄に乗って!!」 勇者カズイチは、「はい。」と、 小さく一言だけ返事をすると、 村人カズミの大きな背中を追いかけて 地下鉄入り口を降りていった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加