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男は立っていた。
目の前には、見慣れた時刻表。
ここは、毎朝通勤で利用するバス停である。
「バスもう来る?」
横を見ると、見慣れた不機嫌な顔。
これは、毎日顔を合わせてる妻である。
社会人になり、上京した娘の所に
様子見がてら旅行に行くところだ。
男の名は、一一(カズイチ)。
妻の名は、一三(カズミ)である。
お互い名前に運命的なものを感じて
結婚した。いや、してしまった。
何となく、普通の名前にしづらくて
娘の名前を一二三(ヒフミ)
にしてしまう、どこにでもいそうな
フレッシュ感ゼロの45才の会社員である。
「もうすぐ来るから- - -」
言いかけた時に、道の向こうに
いつも乗る黄色いバスが目に入る。
カズイチ「来たか。」
これから始まる二泊三日の旅行。
カバン持ち兼、荷物持ちとしての
活躍が期待されている。(強制である。)
女は、子供を産むと強くなる。
更年期を迎えると、もっと強くなる。
反対に、男は弱くなる。(みんなではないが。)
妻が子供を産むと弱くなる(下半身)
妻が更年期を迎えるともっと弱くなる。
(頭皮の紫外線に対する防御が。)
子供の頃に遊んだゲーム風に
メンタルをレベルで表すと、
勇者 カズイチ Lv.11
村人 カズミ Lv.130
戦闘(家に虫が出る)になると、
それがハッキリと確認出来る。
G(黒くてガサガサするヤツ)Lv.20が現れた!
カズイチ → 逃げる。
カズミ → ゴキコロリを唱えた。
Gを倒した。
カズミは、レベルが上がった。
こんな具合いである。
(カズイチは虫が苦手である。)
そんな事を色々と妄想している間に、
バス→市電→新幹線→東京に到着である。
今は地下鉄入り口と書かれた場所に
カズミと立っている。
カズイチは動かない。いや、動けないのだ。
幼少期のトラウマで、地下鉄が- - -
「何してるの?行くよ!!」
心のナレーションにカブせて
カズミが声をかけてくる。
「やっぱり、俺は歩いて行くよ。」
本当は、徒歩では絶対に無理ななのだが - -
再び心のナレーションにカブせて
カズミが叫ぶ。
「地下鉄に乗って!!」
勇者カズイチは、「はい。」と、
小さく一言だけ返事をすると、
村人カズミの大きな背中を追いかけて
地下鉄入り口を降りていった。
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