5人が本棚に入れています
本棚に追加
キッチンにジュウウウウウ、パチパチという油の跳ねる音と揚げ物の香りが広がる。
「テレビつけて。」
「はーい。」
ゆうながリモコンを手に取り、リビングルームのテレビの電源を付けるとちょうど花見の特集をしている番組になった。
「花見シーズンです。明日に備えてもう場所を取っている方、平日の夜から花見を満喫されている方もいます。ただ夜はまだ肌寒いので風邪をひかないように注意してください。明日の天気は晴れのち曇りです。」
ゆうながチャンネルを変えた。
軽快なメロディが流れてアニメ関連商品のCMに変わった。
「 パラディソ~♪ 楽園の~♪」
「「俺の脳内中2設定で現実が楽園に変わった」Blu-Ray Box 発売決定! 限定版の特典はOP曲を歌う ひぐらしきさら の 直筆サインとアニメの振り付けショートムービー!」
「皆さーん、私、アイドルひぐらしきさらの直筆サインもついたアニメBlu-Ray Box ですよ。いつ買うの?買わなきゃすねちゃうからねっ☆」
「あ、ひぐらしきさらだ・・・いいなぁ、アイドル・・・・」
ゆうながポツリと呟く。
ゆうなは秘密にしていたが、何回か家族に内緒でアイドル事務所の新人アイドルオーディションに書類を送付したのだが、書類選考の段階で全て落選していた。
(華やかな芸能界・・人を笑顔にして生きていけたら・・・
そして自分の夢を叶えつつ、家族を楽にさせてあげられたら・・・)
こずえが揚げ物を箸でつまんで油を切るためのパットに広げていく。
「ちょっと味見・・・。うーん、おいひ~。私って天才かなぁ。」
「あ、お姉ちゃん、ずるい!私も~。」
こずえがリビングからキッチンに駆け寄る。
と、同時に玄関のドアを開ける音がした。
母親が帰ってきたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!