492人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
11月11日
女から誕生日を訊かれた。ここで嘘をつく必要もないと「11月11日」と答えた。「ポッキーの日ね」と返ってきた。あのお菓子のポッキーのことかと思った後に、数字とポッキーの形が似ているせいだと結論を出した。
会話は億劫だ。
特に、女と交わすと大概がくだらない内容にすり替わっていく。
「もうすぐだから、当日にお祝いしたい」
一人の女と、二度三度と会うのは避けたい。ここ数年は、特定で特別な女はつくらないことにしている。
「仕事だから、無理かな」
僕にしてみれば、この女との関わりの大方が、さっき終わった。こちらには、声をかけた時点からはっきりと目的があり、それはすでに達成された。
バーで会ったばかりの男相手に、簡単に体を開く。
その愚かさは、一生治ることはない。これから先何度となく繰り返すはずだ。僕に飽きれば他の男の誘いに乗り、必ず裏切りを働く。
少し前まで、誘いを断ってくれる女はいないのかと思っていた。
僕は受け入れられる度に冷えていった。
僕を簡単には受け入れない。僕を決して裏切らない。そんな女はいないのだろうかと、最近ではもう期待を抱けなくなった。
「まあ、いいや。今日は楽しかった。僕は帰るけど、君は好きな時間までゆっくりしたらいいよ。支払いは済ませておくね」
「えっ、もう帰るの? 連絡先教えて」
僕は、衣服を身に着けていく。
「運命を信じているんだ。また会えたら、その時に教える。本当の名前もね」
わざわざ一万円近くタクシー代を払って来た都市で偶然会った女と、再会する確率はどれほどか知らない。また会えたらよほど縁があるとみて、名前と連絡先くらい教えても構わない。ただ、僕の方は顔を覚えていないから、声をかけてもらわなければ気づけはしない。
最初のコメントを投稿しよう!