Bouquets of Irises

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 日曜の夕方、施設内の清掃を終えた熊谷さんと八尾が戻ってくる。夕方とは言え、暑くなってきたこの時期に二人は大粒の汗をかき、同じように首に巻いた手ぬぐいでまるで親子のように自分の汗を拭っていた。  ちなみに、施設内での炊事洗濯掃除はちゃんと当番制になっている。孤児となった子供たちがちゃんと自立した大人になれるようにとの熊谷さんの考えによるものだ。しかし、八尾はそれとは別で手伝いをすることが多い。小学校一年になったということもあり、少しばかり大人ぶって大人と一緒にいたいんだろう。  そんな二人を私は制服エプロン+三角巾姿で出迎える。 「お疲れ様です。熊谷さん」 「おぉ、龍姫ちゃん。どうした?」 「龍姫?」  二人が真剣な表情の私を不思議そうに見つめていた。その視線の中、私は緊張を押し切って声を発する。 「コーヒーを淹れてみたんだ。飲んでもらえませんか?」 「コーヒー? あぁ、いいけど……。あ、もしかして夜中に台所でコーヒー飲んでたの龍姫ちゃんだったの? まだ中学生なんだから飲み過ぎちゃダメだよ?」 「お願いします」  そう頭を下げる私に熊谷さんは慌てたように私に近づき、私の両肩を両手で掴む。 「どうしたの? そんなに畏まらなくてもいいから。いやぁ! 龍姫ちゃんのコーヒーかぁ。楽しみだなぁ」 「オレも飲む~!」 「ダメダメ、小学生が飲むもんじゃない。ほら、手伝ったご褒美にクッキー出してあげるから手を洗いに行こうな」 「クッキー!」  八尾は嬉しそうに顔を輝かせ、走り出す。熊谷さんもその後ろ姿を楽しそうに見つめ、追いかけていった。  さて、私は私の準備をしよう!  そう心の中で意気込んで修行の成果を見せるべく、私は台所に向かった。  テーブルには熊谷さんと八尾が並んで座っている。他の子達は愛麗たちが食い止めているようだった。  私は熊谷さんの目の前にコーヒーカップを置き、目の前でサーバーからコーヒーを注ぐ。  真っ白なコーヒーカップに注がれた茶褐色の液体は徐々に濃度を増していき、普段飲んでいるような真っ黒なコーヒーへと変貌した。立ち上る真っ白な湯気には芳しい香りが混ざり、豆の良さが引き立っている。  その出来栄えに熊谷さんは目を丸くしていた。
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