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「これ……龍姫ちゃんが淹れたの? 僕はてっきりインスタントかドリップバッグかと思ってたよ」
「頑張ってみました。ご賞味ください」
「うわぁ! すごくいい匂い」
そう言って熊谷さんはゆっくりとカップに口を付け、ゴクッと一口飲む。そしてすぐに目を輝かせて私を見る。
「これは美味い! こんな美味しいコーヒー初めて飲んだよ!」
それは最高の賛辞だった。熊谷さんは熱いにもかかわらず、何度かに分けてすぐに飲み干してしまった。
「すごいじゃないか龍姫ちゃん! いやぁ、なんか侮っちゃっててゴメン。すごく美味しいよ、このコーヒー!」
ソーサーに置かれたカップに私はおかわりを注ぐ。すると、横から八尾がカップを取り、熱いであろうコーヒーをぐいっと飲む。
「こらッ! 何やってるんだ!」
「うッ……! ニガァァァ……」
八尾は口に含んだコーヒーを喉の奥に押し込んでから文字通り苦々しい表情のままそんな言葉を吐いた。子供の舌にはまだ早いということだ。しかし、八尾はグッと親指を上げ、私の目を見てやりきったような笑みを浮かべる。
「お、美味しかった……よ。香り……もちゃんと出てた? し、これはオレも負けそうだわ」
「馬鹿なこと言ってるんじゃない! まったく……子供が飲むものじゃないって言ってるだろう? 口の中は大丈夫か? ほら、早く水を飲みなさい」
熊谷さんが八尾の頭を小突き、痛みに耐えた八尾は続いて差し出される水を一気に飲み干した。それでも舌を出して苦味をどうにかしようと必死になっている。
そんな八尾の行動に熊谷さんは呆れていたが、カップの中に残っていた僅かなコーヒーを見て、それをぐいっと飲み干す。
「アハハ、せっかく僕のために淹れてくれたのにゴメンね」
「いえ、大丈夫です」
申し訳なさそうに眉をひそめる熊谷さんに私は満足そうな笑みを浮かべて答える。
私が特に気にしていないという事が伝わったのか熊谷さんは私から視線を外し、怒りの形相を浮かべて八尾に顔を向けて叱った。
「コラ八尾! いたずらをする君にはクッキーはお預けだ!」
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