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「ん……。クリームが重い……。切り口は良いが、断面が綺麗になってないな」
もう珍しくもなくなった光景。私は台所に立ち、お父さんの誕生日に向けて美味しいケーキを作るため、練習を行っていた。
まず、私の作ったケーキはクリームが重く、舌にべっとりと残る印象。スーパーとかで売っているケーキみたいな感じ。その上、重ねたクリームの量がマチマチだったようで断面がきっちりと揃っていなかった。
ケーキ作りってこんなに面倒なものだったのか……。と、私は流し台にもたれかかり、天井を仰ぐ。
「おやおや、何をそんなにアンニュイな気分に浸ってるんだい?台所なんかで」
声のする方を見ると、私よりも四つ年上の心露(こころ)が大学入試の問題集を片手に不思議そうな目で私を見ていた。自分で適当に切った野性味溢れる無造作な髪には不釣り合いの豊満な胸に問題集が埋まっているところを見ると更に憂鬱な気分になる。
「私も女の端くれ……。必要な時には台所に立つさ……。ん?なんか去年のGW近くに似たようなことを言っていたような」
自分の言葉にどこか既視感を覚え、首を捻る。しかし、頭の中から必要な情報は出てこないままだった。そんな私の反応に心露は呆れ顔を浮かべ、私に近づいてくる。
「いや、去年の話は知らないさね。んで、何を作って……ケーキ?ふぅん」
察しの良い心露は飾り付されたミニホールケーキを見ただけで納得したような声を出す。
そして、台所内に侵入してケーキに指をつけてクリームを舐めとる。
「ふむ、ちょいと重いね。もう少しクリームをキメ細かに混ぜるといいんじゃないかい?」
「何も言ってない間から失礼だな」
「また、熊谷さんにかい?」
「違う! ニヤニヤするな!別にいいだろう私が気まぐれにケーキを作っても!」
私の返答にニマニマと緩んだ頬を見せる心露。そんな心露を恥ずかしさを隠すように睨みつつ、私はケーキナイフを片手に持って心露が指をつけた部分を切り取る。
「甲斐甲斐しくていいじゃないのさ。そういえば、もうチョイで誕生日だったね。ま、熊谷さんはいい人だけど年齢がねぇ」
「だから、そういう感情は一切ない!」
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