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「はいはい」
私の言葉に生返事で答える心露。そのまま、台所から出ていこうとしない。私は切り取ったケーキの切れ端を皿に置いて心露の前に出す。
「ん? 指付けたところくらい責任持って食えってことかい?」
目の前に出されたケーキの切れ端を見て、心露は適当に尋ねてくる。私はそれを首を横に振って否定し、心露の目を真剣に見つめる。
「違う。一つ……今まで聞きたくても聞けないことがあった」
「それを聞くが周りに言いふらさないでくれ。これはその対価……で合ってるかね?」
心露のこういうところが苦手だ。察しが良く、何でもわかっているようなそのニンマリとした表情。飄々となんでも熟し、教え上手で面倒見が良く、いつも人に囲まれている。そのまま男女ともに人気も高く、教室で常に独りな私とは正反対だった。だからなのか、心露と話していると自分の器の小ささを指摘されているような気分になる。
そしてなにより、胸が大きい。
「ああ」
だが、今はそんな苦手意識など頭の隅からも切り離して長年の疑問を心露にぶつける。
「心露は自分の生みの親についてどう考えている?」
「生みの親……について?」
予想の斜め上にあったであろう質問に心露は首を傾げて聞き返す。私は首肯してから説明を付け足す。
「あぁ、私は生みの親を“親”として慕っている。辛い記憶も嫌な過去もたくさんあるが、それでもあの人たちを親と認めている。そこでふと思ったんだ。お前たちは自分の親についてどう考えているんだろうか……とな」
「なるほど……ね」
心露は神妙な顔つきで納得したような言葉を出す。そして目を閉じ、数分の沈黙の後にゆっくりと瞼を開いて、口を開ける。
「アタシは……正直、わかんないねぇ」
心露は頭を掻きながらそう答えた。その返答に私の心はほんの少しだけ締め付けられる。そんな私の反応を見て、心露は悲しげに付け加える。
「そもそもアタシ自身、あの人たちを親と思って接した記憶を持ってないからねぇ。生みの親としてどう思うかと問われても何とも言えない……かな」
「そうか……」
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