Bouquets of Irises

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「まぁ、他に関しちゃ、本人たちに聞かなきゃ本当のところはわかんないねぇ。それぞれが生まれた経緯もあるだろう。そう考えると、一番親子らしい関係を持っていたのはアンタかもしれないよ」 「なに?」  その言葉に私は思わず聞き返す。心露はどこか羨望に近い眼差しを私に向け、薄く笑みを浮かべた。 「男女が交わって、自分たちが初めて作った子供で、一時とは言えあの二人から無償で愛される……愛されていると感じたんだろう? それにアタシらと違ってアンタは成長する過程でキチンと親子のようにも接していた」 「ああ」  そんな時代が私の中で最も忘れたい時だった。愛を受けているはずなのに、それの重要性に気づかず、子供のような無邪気さで切り捨てて行った。だから、家族は壊れてしまったのかもしれない。  そんなネガティブ思考に切り替わった私を半眼で睨み付ける心露。その視線に気づいた瞬間、心露の両手がピシャリと音を立てて私の両頬を挟み込むように打つ。 「アンタは……またバカなことを考えてるね?」 「思い出しただけだ」  その言葉に私は目を伏せる。言葉はなく、ただそれだけの行動だったが、心露に溜息を吐かせるには十分だった。 「切り替えの良さがアンタの持ち味だろうに……。ウジウジと悩むのはどっちに似たんだか」  その発言に私は思わず笑みを溢す。だって、お父さんもお母さんも“閉じ籠って悩む”タイプだったからな。 「それはどっちも悩みっぱなしな感じだから選べないな。それでも悩む時くらいあったっていいだろ? 過去から学ぶことはたくさんある」 「それが過去に囚われて、過去に引き摺られてちゃ意味ないよ」 「ああ、わかってる」  頭では分かっているが、根っこの感情を司る部分がどこか納得していない。私のそんな想いは正確に心露にも伝わっている。それだけはわかっていた。  それでも私はそんな想いを隠したい一心で、無言のまま心露を抱きしめる。 「ちょ!? なんだいなんだい? いきなりセンチな気分に浸られても困るんだけどねぇ」 「この程度で照れるなんてらしくないな」 「いきなり抱きつかれたら照れもするさね」
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