Bouquets of Irises

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 私たちはお互いの耳元で会話する。抱きしめた腕から、体から心露に触れている部分が暖かくて心地いい。だけど、心露の声はいつもの落ち着いている声のトーンからワントーンくらい上擦っていた。  私はゆっくりと体を離し、心露のはにかむ笑顔を見て、同じように笑みを浮かべる。 「相談に乗ってくれてありがとう。少し……少しだけ自分に自信が持てたよ」 「そりゃあ、良かった……。あんま悩まず、アンタらしく馬鹿正直にまっすぐ進みなさいな。猪突猛進娘」 「誰が猪だ」 「アンタだよ、アンタ」  半眼で睨み付けてくる心露。それでもさっきとは変わって口元は笑っていた。そして、私の鼻を人差し指で押し、少しだけ厳しい表情で私に注意をする。 「だけど、あんまり他の子らにそういう話するんじゃないよ?一癖も二癖もあるような子供がここには集まってんだからね」 「ああ」 「ん、よろしい……ん? んん?」  私の返答に満足そうにうなずきつつ、心露は何かを思い出したのか首をひねって唸る。そして、ゆっくりと目を見開き、“驚愕!”といった表情を浮かべて私とケーキを交互に指差す。 「アンタ……まさかそのケーキ」 「口止め料としてもう少し食べていけ。いいな?今の会話は禁書レベルの案件だ。私たちが墓に入ろうとも決して手放さず外にも漏らすな」  私は心露の言葉を遮るように口と手を動かす。  やはり心露は苦手だ。今の会話でどうして答えまで導き出せるのか……。とりあえず、私は恥ずかしい思いを切り捨てて、心露にケーキの残りを進呈する。  心露はそんな私の反応を見て、またいつものお姉さんぶった表情で笑顔を浮かべていた。
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