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そして、この日……。私たちがいつもお世話になっている熊谷さんの誕生日が訪れる。
私の目の前には綺麗にデコレーションされたホールケーキ。
滑らかな白いクリームの平地にほんのりピンク色の可愛らしいクリームの花が活けられ、隣には真っ赤ないちごがミントに腰掛け座っていた。それらは崖のギリギリに咲いており、ケーキを切った際に一つ一つがちょうどいい位置に来るよう計算した。
中心にはほんの少しだけ盛り上げられた台地に“誕生日おめでとう”と白字で書かれた板チョコが立てかけてある。
最後に板チョコの両隣に“4”と“5”の形をしたロウソクを立て、火を灯す。
「完成だ」
「んじゃ、電気消すよ!」
食堂の照明が消え、ケーキに立てられたロウソクの灯りだけが淡く輝く。ケーキの目の前に座っているのは今日で四十五歳になる熊谷さん。私のケーキを見て目をキラキラを輝かせ、そわそわと体が小さく揺れている。
熊谷さんを囲むように十八人の同じ釜の飯を食う血の繋がらない家族たちと同じ施設で働く職員が並び、私たちはみんなで一斉に歌いだす。
「「「ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデーディア熊谷さ~ん!ハッピバースデートゥーユー!」」」
歌い終わり、一瞬の沈黙の後に宏太がケーキ食べたさに口を開く。
「熊谷さん! 早く早く!」
「あ、あぁ……」
熊谷さんは宏太に促され、“フーッ”とろうそくの火を吹き消す。唯一の明かりが消え、食堂に暗闇が訪れると同時に食堂の中を割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「誕生日オメデトー!」
「おめでとうございます」
「龍ねぇ! ケーキ切って切って!」
「うまそ~!」
まだ小学生の家族たちは我先にとケーキに群がる。私はケーキナイフを片手に子供の垣根を掻き分け前に出て、熊谷さんの前に置いたケーキを自分の前に移動させる。
「今切ってやるからおとなしく待ってなさい。あぁ、優護。台所に他の人の分が置いてあるからそっちも持ってきてくれ」
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