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「わかった」
「あ、手伝います」
そう言って、優護と愛麗は台所に向かう。それはそのはず、全部で二十三名になるこの場で六号のワンホールのケーキなんて分けたら一人分がとても侘しくなる。だから、今日のためにたくさん作っておいたのだ。
私はケーキを綺麗にカットし皿に移す。そして、横にメッセージ入りの板チョコを立てかけ、板チョコが真正面から見えるようにそれを熊谷さんの目の前に出す。
「どうぞ。ご賞味ください」
「龍姫ちゃんが作ってくれたケーキかぁ。嬉しいなぁ」
目からボロボロと涙を流す熊谷さん。その様子を見て周りの子達が驚きの声を上げる。
「うぉ!? なんで泣いてんの!?」
「え? 美味しくないの?」
「大人のくせに泣くなよ~!」
「うぅ……ゴメン。でも、嬉しくてね。龍姫ちゃんがいい子に育ってくれて本当に嬉しいんだ」
言外に込められた言葉に他の職員たちも同様の思いを抱いているのだろう。小さく頷き、もらい泣きしている方もいた。それを見て私は毅然とした態度のまま、熊谷さんの肩に手を置く。
「ここまで育ててくれたのは熊谷さんや他の職員の方々のおかげです。美味しく出来ている自信があるので是非、食べてください」
「うん……うん……」
涙を拭いながら熊谷さんは頷き、フォークを手に取る。カットケーキの先端をフォークで切り取り、そのままフォークの腹の上に乗せて自分の口に運び入れる。そのまま、またボロボロと涙を流しながら、熊谷さんは嗚咽の混じる声で“美味しい”と何度も連呼した。
そんな光景を見て、周りの子供たちもが言葉を失い、熊谷さんの嬉しそうな泣き顔を見ていた。
「泣くほど美味しいんだ」
「あいりちゃん! 私にも切って!」
「僕も食べたい!」
「ユウにぃ! あたしも!」
「はいはい。順番ですから並んでください」
「みんなの分あるんだから行儀よく並びなよ」
優護と愛麗もケーキを配り始め、他の職員の方々も席について配られたケーキを食べようとしていた。
熊谷さんのためのケーキは熊谷さんの他には職員の方々に切り分け、残り二ピースのうちの一つは心露に手渡した。
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