Bouquets of Irises

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 楽しい楽しいGWが終わり、段々と外気に熱が現れていくこの頃。まだ、朝焼けの綺麗な時間だというのに薄着でも過ごしやすい気温になっている。  私はいつもの白シャツに濃紺のジーパンというスタイルで大通り前の開店祝いの花輪が置かれた店の前に立つ。  入口のドアの上には店の名前が筆記体で書かれている。私は自然とこみ上げてくる喜びを表情に出し、そのまま店の裏手に回る。木製の素朴なドアの前で必要最低限のものしか入っていない小さなカバンから鍵を取り出し、錠に挿し込んでから回す。カチャッと新品を表すような澄んだ音が聞こえ、私は鍵をカバンに戻してドアを開ける。  まず、裏口から入ってすぐ右の壁にある照明のボタンをポチポチと押し、店の中の明かりを点ける。そして、照明スイッチ群の上にあるパネルを操作して空調を入れる。 空調が無事に起動したことを確認し、流し台の前を通ってスタッフルームにカバンを置きに行く。その後、カウンターを再び通り抜け、ホールに移動。誰もいない店の中心に立って、私は万感の想いで店の中を見渡す。  今の時代、都内では珍しく欅(けやき)で作られたこの店。  天井を見上げるとゆったりと回るシーリングファンといくつかの照明。  照明には和紙の函を被せ、強すぎるLEDの明かりをちょうどいい強さにまで調整させた。また、和紙に描かれた四季の草花もなかなかおしゃれに見える。  視線を目線の高さに戻し、前を見る。すると、まず目に飛び込んできたのは五人が並んで座れる背の高い栗のカウンターテーブルと足の高い木製の丸椅子。ここはコーヒーショップらしく厳かな雰囲気を出してある。  そのまま左に視線を動かすと、レジがあり、そのさらに左側の窓側に同じ栗製の波打つ装飾が施された一本足で立つ木製丸テーブルが一台。それを囲むように蘭・菊・梅・竹が四つ足に彫られた四脚の木製椅子がひと組。この椅子には背もたれがあり、その背の中心にはそれぞれの立ち姿が描かれている。  更に視線を動かすとステンドグラスの嵌った入口があり、窓に合わせてその先にもう二組の丸テーブルと椅子を置いている。ステンドグラスに描かれているのはもちろんこの店の名前にも入っている菖蒲の絵だ。
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