Bouquets of Irises

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「アタシは別に構いやしないのに。あっちのケーキと何が違うわけでもないんだろ?」 「愛情の違いはあるかもしれない」  私の返しに心露は目を丸くした後、声を殺すように笑う。私は笑う心露に馬鹿にされているように感じ、心露を睥睨する。 「悪い悪い、そんなに睨みなさんなって。んで?最後のひとつは」 「気にするな」  そう言って、最後の一つをケーキ待ちで一番後ろに並んでいたしていた八尾に手渡す。八尾は差し出されたケーキの乗った皿を見て私を不思議そうに見上げていた。 「え?これ俺の分?」 「ああ、いつも熊谷さんの手伝いをしているだろう? せっかくだから同じホールのケーキを食べるといい」  私の言葉に他の子達が抗議する。だけど、もう大人な妹弟たちが諌めて、収める。職員のみんなはそんな光景を見て、嬉しそうに微笑んでいた。  当の八尾はというとキョトンとした表情のまま皿を私から受け取り、席についてから両腕を上げて叫ぶ。 「俺、勝利!」  またその叫びのせいで騒がしくなるのだが、それはそれとして……。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。  片付けも終えて、私は一人で食堂に残っているとドアの開く音と共に熊谷さんの顔が食堂を覗いていた。 「まだ……起きてたのかい?」 「ええ、嬉しいこともあったので」 「それはこっちのセリフだよ」  熊谷さんはそう言いながら私の対面に座る。そして、柔らかな笑みを浮かべて口を開く。 「本当に今日はありがとうね。今までで一番嬉しい誕生日会だったよ」 「そう仰っていただけたのなら幸いです」 「こんな言い方すると悪いけど、あの龍姫ちゃんが女の子らしくなったもんだ」 「自分でもこうなるとは思いませんでした。けど、熊谷さんたちのおかげで今の私があるんです。本当に感謝しています」  私がそう言って頭を下げると熊谷さんは慌てた声を出しながら私の肩に手を置き、私の頭を上げさせる。 「感謝するのはこっちの方だよ。本当にありがとう。ケーキも本当に美味しかったし、片瀬さんとか水口さんとかも絶賛していたしね。お店出せるレベルだってみんな言ってたよ」 「本当に嬉しい限りです」
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