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「龍姫ちゃんの将来か……。楽しみだね」
「将来……」
今まで考えたこともなかった自分の将来。ふと、頭の中にぼんやりとしたイメージが浮かび上がる。
熊谷さんはそんな私を自分の将来に悩む、うら若き乙女の悩む姿に父親のような慈愛の籠った優しい目で見つめている。
取り留めのない貴重な時間、言葉が無くても共有できる想い、安らかで穏やかなその時間はこの場にいる二人を優しく抱きしめていた。
だけど、そんな時間は長くは続かず、ガタっとドアが不器用に開く音が終わりを告げた。
「ふぁ……んあ、水」
「八尾!? どうした? こんな時間に」
「みじゅ……」
「水? ああ、喉が乾いたのか?」
「んあ」
寝起きのためかろれつが回っていない八尾は目を擦りながらフラフラとこちらに近づいてくる。
それを見て熊谷さんは台所に行き、水を汲む。
私は八尾に近づき、しゃがんで目線を合わせてフラフラとしている体を支えてやる。
「龍姫?」
「ああ、そうだぞ。こんな時間に起きてくるなんて珍しいな」
「まぁな……。騒いでたから……。ケーキ、美味しかったって……伝えてなかったし。クリームがちゃんと軽く仕上がってて、いくらでも食べられる……」
耳元で囁く言葉。八尾の言葉に私は目を丸くする。と、同時に熊谷さんが水の入ったコップを八尾に差し出す。
「ほら、八尾。一気に飲まずゆっくりと飲むんだぞ?」
「ふぁ」
ごくごくと喉を鳴らして水をゆっくりと飲み干す。プハッ口から空気を吐き出し、八尾はコップを持ったまま眠たそうな足取りで後ろを向いて歩き出す。
「寝る」
「こらこら、コップは置いてきなさい」
「あ、熊谷さん。コップは私が……熊谷さんは八尾を部屋まで送ってあげてください。私ももう寝ますので」
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