5人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、うん。じゃあ、お願い。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
「おやしゅみ~」
「あぁ、おやすみ。八尾」
寝ぼけたような声で後ろ姿のまま腕を上にあげてフラフラと振る八尾に私も手を振る。
私の手に熊谷さんが変わりに反応し、二人は食堂から出ていく。
私は手に持ったコップを見つめ、さっき熊谷さんに言われたことを思い返す。
「店……か」
お父さんに今度はケーキを褒められたこの日、私はまだ中学生だった。将来に夢を見て、現実も身近に感じられ、行動に移すにはとてもいい時期だろう。だからこの時、私は心の中に小さな夢を抱いた。お金を稼いで叶えることのできるささやかな願いを。
あの人のために……と。
****
********
************
****************
コーヒーカップなどの洗い物をしながら記憶のページを一旦閉じる。あれがこの店を作ろうと初めて決心した日だったんだな。今からちょうど十年前か……。
手を拭き、布巾で流し台を一通り拭いた後、時計を見て開店までの時間が徐々に近づいていることに気づく。
それでもまだ休む時間はあると、最後に台所奥の狭いスタッフルームに入る。小さなパソコンデスクとノートパソコン、そしてバイトを雇った場合のために設置した着替えを入れるためのロッカーが三つ。着替えは一人ずつしかできないほどの狭い空間だが、ここで売上の管理をする。
最初のコメントを投稿しよう!