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私はパソコンチェアに座り、ノートパソコンを立ち上げ、スタッフルームのスライドドアを締める。
ノートパソコンのメーラーを起動すると、中には友達やお世話になったバイト先の店長から激励のメールが来ていた。
相変わらずの気さくなメール内容に思わず笑みを溢し、返信を書く。
私が初めて“稼ぐ”ということを学んだ飲食店のバイト。高校入学後すぐに始めて、大学を卒業する二年前まで続けていた。
店長は気さくないい人(既婚者)で、奥さんも綺麗だった。脱サラし、若くして自分の店を持った先輩でもあり、私は店長からいろんな開店にまつわるノウハウや接客業のなんたるかを教えてもらえた。
ただ、個人的にやってみたかった湯切りは遊び程度でしか認めてもらえず、練習でさえあまりできなかった。そこだけは悔やまれる。
肝心の店も順調に成長し、外の風貌や店長のキャラから女性客は見込んでいなかったのだが、なぜかそれなりに女性に人気な店に発展。私がいた最後の方には女性に好まれるお店・面白い店長のいるお店として多くのグルメ本に載るくらいまで成長した。
それでも店舗を増やす、店の面積を増やすといった行動に出ず、硬派に店を続けていく店長の姿に私は内心憧れていた。
私は稼いだバイト代を時々練習のために購入するコーヒー器具に使うばかりで殆どを貯金に回していた。おかげで友達とお金をかけるような遊びはあまりしなかったため、学校での交友関係はより狭く、より深くなっていた。
そして二年前に頭の良い妹が“卒業祝いに”とくれた足りない分の資金のおかげで予定通りに私の店が完成。若くして叶った夢の喫茶店完成に身震いをする。
現在、二四歳。今でも肩口まで伸ばした黒髪は十年前と変わらず後ろで一つに縛っている。ただし、期待している女らしさは十年前から変わらず、あまり感じられない。
この歳になっても女らしさのない凹凸の少ない長身の私。目つきも顔つきも鋭く、ヤンキーっぽいと言われてきた。それでもバイトで培った客相手の顔は当時の女性客から好まれていたため、この店でも通用する自信がある。
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