Bouquets of Irises

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 誰が入るわけでもなく更に時は過ぎ、十一時を回った頃になってようやく一人のスーツ姿の男性が扉を開けた。  私は立ち上がり、その男性の出で立ちを見る。四〇代後半くらい、今日という日にしては珍しく持ち物はビジネスバッグと額の汗を拭っているベージュ色のハンカチ。  冷房のおかげで外よりも若干涼しい店内を見渡す男性は客が自分一人ということに気づき、汗を拭いながら私の目を見る。  私はそこでようやく自分のやるべきことを思い出す。高校時代から続けてきたバイトで培った経験を活かし、普段の抑揚のない顔に精一杯の笑顔を浮かべ、馬のように後ろ髪を靡かせ、元気よく声を出す。 「へいッ!らっしゃいッ!」 喫茶店『Bouquets of Irises』 本日、無事に開店だ!
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