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従業員と客が移動しやすいようにテーブル間隔は広めにとった。本当は各所にパキラの植木鉢を置きたかったが、葉っぱなどが通行時に邪魔になると考え、店の壁際に追いやる。そして、代わりになればと窓と窓の間の壁に淡い色の綺麗な絵を飾り、店内全ての椅子の上には自分で作ったさまざまな色のクッションが敷かれている。これらの彩がシックな店内にメリハリを与えていた。
そして、私は店の奥へと歩を進める。男女兼用の一般家庭のものよりも広めのトイレ。入ってすぐに目に飛び込んでくる造花のジャーマンアイリス。曇りガラスから差し込む光に白と紫の綺麗な花弁が照らされ、偽物と解っていても華やかさを出している。しかもこのトイレ、近づくと自動的にふたが開くという不思議機能付き。洗面台も一緒になっており、自宅のトイレよりも高性能だ。
トイレに行く短い廊下の左側には障子によって閉ざされた座敷の部屋がある。この店の中で最も特別な場所であり、この店を作る上で欠かせない場所。
中は十畳の和室になっており、部屋の中心には九人が座れるくらい大きな堀のあるテーブルがある。ここのテーブルのみ他とは異なる槐(えんじゅ)を使用しており、窓の手前にも障子が張られている。
そしてこの部屋だけ何も飾っていない。まるでどこかの家の一室のような質素さを醸し出している。部屋の中、入口の傍に置かれた使い古された土足入れを見て何故か笑いがこみ上げたが、まぁこの部屋に縁のない人には理解できないだろう。
ホールに戻り、最後にカウンターの奥のキッチン……つまりは私の仕事場に足を踏み入れる。
カウンターの後ろにはガラスのスライドドアがついた食器棚。中には陶器の取っ手付きカップとソーサー、コーヒー用と紅茶用、そしてデミタスカップが綺麗に並べられている。
食器棚の真ん中あたりにある引き出しにはスプーン、フォークなどを収納している。
そして、一番下にはコーヒー、紅茶を入れるための器具や各種コーヒー豆、紅茶の葉が仕舞ってある。
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