Bouquets of Irises

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 カウンターの目の前には流し台や作業スペースがあり、これまた自宅よりも広く使いやすい。一番左側にある流し台の下には収納スペース、そこから右に冷蔵庫・冷凍庫・オーブンレンジが備え付けで設置されている。  これで得意のお菓子も作れる。  よし!確認終了。  店内の状況は良好だ。幼少の頃からの夢が今ここに叶った瞬間だった。  私も最初からこんなカフェを開こうと思っていたわけではない。  大好きなお父さんのために何かをしたい。  お父さんが喜ぶ顔が見たい。  お父さんに褒められたい。  そんな一人の娘らしい感情が私の夢のきっかけだった。  昔の私は本当に空っぽな人間だった。だけど、その状態が正しいと思い、どんなものをもらっても何も感じず、どんなものをもらっても捨てていた。心が荒んでいたとも言える。  だけど、お父さんが私を助けてくれた。身を挺して……私に気づかせてくれた。その時から私はこの人が私の父親だと再認識したのだ。  お父さんと私には血の繋がりはない。だからこそ、私はお父さんを“お父さん”とは呼べなかった。同じような妹弟たちもお父さんのことを“お父さん”とは呼ばない。それも原因の一つだろう。これでも長女としてのプライドがある。妹弟たちが甘えずに頑張っているのに私だけ甘えるわけにはいかないと心を冷ややかに両親と接していた。  私の人生というのもあまり緩やかなものではなかった。辛い日々を乗り越え、ふと現れた平和な時間。そんなまったりとした時の中で、私の頭はふと思いつく。 “私が女の子らしい事をするとお父さんはどう思うのだろう?”……と。  今まで女の子らしい趣味なんてものを持った記憶はない。人形集めも料理も縫い物も、衣服に気を使うことも化粧をすることでさえ興味を持てなかった。そんな私が考える女の子らしさといえば安直にも“料理”。私はそんな直線的な考えの下、まず初めにお父さんの好物を作ろうと決心した。  ちなみにお父さんの好物は甘いものとコーヒー。  そこで”お菓子作り”に行けば可愛げもあったのに、私という女は”コーヒー”の道を進んでしまう。ある意味、それは私らしさなのだがそんなことにも気づけていない当時の私は心の奥底に生まれた暖かい何かに突き動かされ、いつものように即座に行動に移していた。 **** ******** ************ ****************
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