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「愛麗!」
「は、はい!?」
愛麗の手から問題集が落ち、その音と共に愛麗は困惑した表情を浮かべる。それでも頬を僅かに赤く火照らせ、何かを期待したような想いを込めて私の目を見つめ返していた。
「あ、あの……タツキさん? わ、私もお気持ちは嬉しいのですが、なんといいますか流石に身内に手を出すつもりは……」
「私にそんなつもりは毛頭ない。そんなくだらない内容ではなく、手伝ってくれないか?」
「くだらない……」
何故か落ち込む愛麗に私は内心首を傾げるが、愛麗の目をジッと見つめ返事を待った。
愛麗も私の真剣さが伝わったのか先程までの落ち込んだ表情が消え、笑顔を浮かべて首を縦に振る。
「別に構いませんけど。ただ、何を手伝えばいいんですか? あの……先に言っておきますけど、無理なことは無理ですからね?」
「わかっている。誰にでもできる簡単なことだ。愛麗でも可能だ」
「うぅ……タツキさんはもうちょっと言葉の鋭さを抑えてもいい気がします」
と、言いながらも愛麗は私の手伝いをしてくれることになった。
私は愛麗用に別のコーヒーカップを温め、サーバーを手に取ってそれに向けて傾ける。
白いコーヒーカップに少し薄い黒の液体が注ぎ込まれ、湯気と共にコーヒーの香りが立ち上る。
それをソーサーに乗せてテーブルについた愛麗の前に置く。
「頼む。このコーヒーの感想が欲しいんだ」
「すごく真剣な表情……。わかりました、私も真剣に感想を言わせて頂きます!」
私はテーブルの対面に座り、愛麗の動きに集中する。
愛麗はコーヒーカップの取っ手に人差し指と中指をいれ、持ち上げる。ゆっくりとカップの淵に唇が触れ、わずかに空いた隙間から黒い液体が流れ込む。ゴクッと愛麗の喉が鳴り、カップが元の位置に戻る。
そして、首を傾げてから私の目を見る。
「特に変な感じはしませんけど……。苦すぎるわけではありませんし、すっきりしてて飲みやすいですよ?」
「いや、いつも私たちが飲んでいるコーヒーと比べて……だ」
「それって……。あぁ! それを言われるとあっちの方が香りも立ってますし、味もキレがあります。言い方は悪くなりますけどタツキさんのコーヒーは味が薄い……と言えますね」
「やはりそうか」
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