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愛麗の感想に私はひとり納得する。自分の感覚は間違っていない。それならやはりどこかしらに問題があるということだ。問題がどこなのかは一つ一つ紐解いていけばいい。
そんなことを考えていると愛麗が少し嬉しそうに微笑んで口を開く。
「なんかタツキさん、いつも以上に一生懸命ですね」
「今まで考えもしなかったことだからな。そういう風に見えるのは仕方がないことだ」
「それはきっと心に余裕ができたんですよ。どうして美味しいコーヒーを淹れようと思ったのかはわかりませんけど、お手伝いできるところはこれからも付き合いますよ?」
「本当か?」
「はい」
愛麗の笑顔に私はスッと頭を下げる。
「ありがとう。私は何度も何度もコーヒーを淹れるから、愛麗は何度も何度もコーヒーを飲んで感想を教えてくれ」
「た、タツキさん顔を上げてください! あと、言い方が直線的すぎます!」
「済まない」
「もう……」
ちょっと頬を膨らませて愛麗は溜息とともに声を漏らす。
だが、どこか満足そうに頷き
「何を考えているのか今はわかりませんが、コーヒーのおいしい淹れ方を探してみますか?手始めに図書館……」
と、手元に置いていた問題集を持ち上げる。私はその動作を見て首を横に振り
「いや、自分で探す。愛麗は受験勉強があるだろう?感想をもらうくらいで十分だ」
「そうですか? 受験勉強自体はさほど苦労していないんですが……」
「それに愛麗の言う図書館には行けない」
「え?」
愛麗の驚く顔を見ながら私は腕を伸ばして愛麗のカップを回収し、立ち上がる。
「できるだけ内密に進めたいんだ。だから、愛麗もなるべく内緒で頼む。心露や優護は大丈夫だろうが念のため、それと八尾にもだ」
「ヤオさんも?それはまた何故ですか?」
愛麗の疑問に私は口を閉ざす。ストレートに言うのは恥ずかしい。しかし、隠し事はしたくない。そんな気持ちの間で揺れ動き、私は平静を装って口を開く。それでも、僅かに残った私の中の羞恥心が顔を火照らせている事に私は気付けなかった。
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