5 味は異なもの拘るもの(つづき)

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「でも案外、人って、自分の事をきちんと見るのって不得手なのかも しれません。 というか、自分と向き合うとか、ましてや客観的に自分を知ろうっていう人 自体が少ないのかな」 だけど――。 と言った「マダム」の声に、相変わらずの穏やかさとは違う何かが チラリと顔を覗かせた。 「未来は常に変幻自在で、そこにあるものが確実に分かる人なんて 誰一人、いないと思うんです。 だから、自分をちゃんと知って、その時、その時の一歩の選択は 大事にすべきかと……」 そして、小さく言葉を切った「マダム」が俺から視線を外し フッと淡く苦笑をする。 「なんて、偉そうな事言ってますよね。 それに、みんながそれをし始めたら、 それこそ僕は、世間からお払い箱ですけど」 その瞬間、彼の穏やかさの裏から覗いていた何かが ふとその気配をぼやかす。 そして、淡くなったその気配を 俺たちを掠めていった五月の風が柔らかに持ち去った。
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