5 味は異なもの拘るもの(つづき)

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俺は、それでも、ほんの短くその何かの残像を追いかけた。 だが、追う事など無駄だとばかりに、それは跡形すらなくなっている。 そして今の俺は、「マダム」の言葉に何かを返せるほど 自分は成熟できていないと改めて思った。 だからという訳ではないが、俺は、あっさり話題を変えた。 「あの、例のパン屋さんのお勧め新作って何ですか?」 だが、さすがに唐突すぎたのだろう。 「えっ?」と、わずかに「マダム」の目が見開かれる。 それに、つい我が家の癖が出た自分が少しばかり恥ずかしくなり、 俺は、訳もなくこめかみの辺りを小さく引っ掻いた。 「あ、その……、中途半端な時間なのに小腹が空いちゃって。 ちょっと寄ってから帰ろうかと思って……」
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