5 味は異なもの拘るもの(つづき)

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だが、そんな俺を訝るでもなく、逆に「マダム」は、少し顔を赤らめ 新作ではないがクリームパンがお勧めだと言ってくる。 確かに。 内心うなずいた俺の脳が、あの上品な甘さを反芻した。 「あれ、あそこの看板商品になりそうですよね」 そしてウチの両親も、あの“スピーカー”ですら珍しくまともな情報として あのパンを薦めたことを口にする。 「そうですか。そうなるといいですね」 はにかみの後ろ側でちょっと嬉しそうに微笑む「マダム」の横で、 俺は、ゆっくり立ち上がった。 「じゃあ、また」 はい。 頷いた「マダム」と別れ、愛車を再び走らせ始めた俺の頭に あのコロンと丸い姿がバニラの香りと共に浮かんでいた。
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